トップカイザーサウンドオーディオクリニックの旅Confidence5(自信)という名のスピーカー

Confidence5(自信)という名のスピーカー



 スピーカーの加速度組み立ての依頼


  日頃からウェブを見てくれている方なんでしょう。近々、私が一関の方へ行く事を知っていたらしく、『その途中仙台へ立ち寄って、スピーカーの加速度組み立てをして欲しい』という電話依頼を受けました。幸いにも、今回は私のマイカーにカーオーディオを取り付けて貰うために車を持ち込むのが目的ですから、他の仕事は組んでおりませんでした。ですから、少し早く出発しさえすれば、クリニックの時間を充分に取る事が出来ました。2週間前も同じようなコースで福島に行きまして、このところ東北づいております。

 「あらかたで結構ですから、システムの概要を教えて下さいますか?」。スピーカーがディナゥディオのコンフィデンス5、アンプはソニーのデジタルアンプ、CDはリンデンマン680。という事ですが、CDだけは見た事も聞いたこともありません。
 価格的に見ても、一品一品がどれも100万を越すようなシンプルで質の高いコンポーネントです。特にアンプとスピーカーとのマッチングは申し分ないでしょうから、当日どんな音が出るのか私も非常に楽しみです。

 予定通り朝の9時にはY.Kさん宅に到着です。一番最初に目に留まったのが電源とピンケーブルです。過去に一度だけ出合った事がある、47研究所の0.4ミリ単線で揃えています。これは以前に何十倍もするW.Wのケーブルと比べた時に、むしろバランスが良いと感じたので、それに決められたそうです。その線を使う限りは電話線と同じですから、帯域バランスこそナローでも、電気的時間軸が揃っているのでテンポやリズム感は抜群です。

 この手の音の鳴り方に価値観を見い出す方は、音としての情報量が多いオーディオ的要素よりも、音楽的感性の方を大事にされるようです。私の場合もどちらかというと同類項です。ですから、その気持ちがよく分かります。そんな方となら、クリニックやセッティングによる音作りの段階で意見が食い違う事は先ずありません。


 コンフィデンス5の実力や如何に?


 こじんまりとまとまった音は予想通りでした。この程度の鳴り方なら、ディナが「自信」という名前を付けた「コンフィデンス5」が泣くでしょう。今日の私のテーマはパッと聞きであっても、「モノが違う!」と感じたこのスピーカーのポテンシャルを限りなく引き出してみせる事です。ソニーのデジタルアンプTA-DR1が頼もしい味方となってくれるはずです。


 音を生かすも、殺すもスピーカーの足場次第


 ただ一つ事前情報を頂いた中で気になっていたのは、米粒大ほどのケミカル粒子充填財を使ったスピーカーベースです。安いコストで一見ブーミーな低音から開放されたような変化に、解決が図られたと勘違いしてしまうのがこの手の物です。これをどう判断し、どう行動するかがその後に大きく影響するのです。

 過去のクリニック時に、このベースに二度出会った経験がありますが、先を見据えたランクアップの音作りを目指す場合には、ここがターニングポイントになります。床とスピーカーとの間で起きる不要振動は確かに減るでしょうが、よくよく聴くと、それと共に必要な美味しい音楽の栄養分まで同時に殺がれてしまうのです。

 嫌な音を避けようとすると、無くしてはならない物まで無くしてしまう。このジレンマはオーディオの一大テーマです。マニアの98%の方はこの問題に悩んでいます。不要な振動が必ず発生するのではなく、自ら発生させていると言った方が正しいかもしれません。


 ローゼンクランツ流和音セッティング


 スピーカーのみならず、家具調度品共々、部屋との共存のあり方次第で、その手の不要共振はほとんど発生しなくなります。この問題を正面から取り組み、事実と因果関係を的確に捉え、短所を嫌うより長所に目を向け、良いところをドンドン伸ばす手法を「ローゼンクランツ流和音セッティング」と呼んでおります。

 『高性能な商品を買うだけ買ってみたけど、音楽を聴く喜びは得られなかった・・・』。良い音になるには、どうやら物だけではなく、そうした考え方なり、腕によるところが大きいのでは?と思う人達が少しずつ増えています。今日のY.Kさんもそんな中のお一人です。

 既にローゼンクランツ製品の長所は認めて下さっているようで、アナログスタビライザーのDAIBUTSUを初めとして、インシュレーター等、色々と目に入ります。ロックを好んで聴かれるY.Kさんは、連れて来た息子と話がとっても合うようです。特にジェフべックのギターの音について話の花が咲いたようです。


 スピーカーの位置出しにみるプロとアマの違い


 私がお客さんの音楽に対する拘り等の引き出し役に回り、それに対して息子がセッティングをするというのが二人で訪問した時のパターンです。Y.Kさんにとって、今日の一番の関心事はスピーカーのセッティングにあるようです。

 とりあえず、スピーカーの位置出しのみで、どれだけの音質改善が図れるのか、ほんの2、3センチだけの移動ですが、先ずは聴いて頂きます。ご自分なりにスピーカーの位置合わせは何度も試み、良いポジションを探り出したと仰るのですが、移動後の今の音を聴く限りは、もうひとつだった事が判明したようです。


 重要なクリニックのストーリー


 一気にスピーカーの足回りを完成させても良いのですが、システム全体の中で、どこの部分がどのような音の役割を担っているのかを知って頂く為には、効果の分かり易い順番と方法でクリニックと併せたセッティングを進めて行かなくてはなりません。それは、訪問先の状況によって色々と変化します。要するにツボが何ヶ所かあるのです。

 今日の場合の第一関門は壁コンセントから電源タップまでのACケーブルです。その仕事はタップに繋がっている食べ盛りの子供達に充分な栄養を補給してやらなければなりません。今繋がっている物はあまりにも細いので、強力なパワーを誇るAC-RG2に変えてテストです。

 本来は「ナイアガラJr.U」のタップと同時に聞いて頂くのがベストなのですが、如何にその部分に問題点があったかを理解して頂くには、一つ変えるだけの方がA-B比較になって分かり易いからです。予想通り、ここは劇的な変化が見られました。

 次はCDプレーヤーに目を向けます。少し前にインシュレーター「PB-JR(U)」を買ったものの、底部の4個の足が簡単に外せないばかりに高さ不足で使えなかったようです。その足の下にはトーンアーム用に用意したマイクロベース/MB-18が入れられてあります。臨時とは言え、これはいけません。むしろ外した方が良いはず。

 そこで思い切って、強力なPB-BOSSを前1点の3点支持で試聴してもらう事にします。呆れてモノが言えないほど、使用前と使用後の音の違いが判ります。それにしても、違い過ぎます!。今の今まで、このCDプレーヤーは「半分の力も発揮出来ていなかったのでは?」と思わずにいられないような変身ぶりです。こんな場面に出くわす度に、「もったいないな〜」と思うと同時に、ローゼンクランツのインシュレーターの凄さに我ながら改めて惚れ直します。


 音楽のエキスが見え始めた


 タップから機器までなら、何とか今の0.4ミリのACケーブルでもギリギリ大丈夫です。ですから、次は電源タップの強化を試みます。「ナイアガラJr.U」の出番です。これもタップまでのACケーブルと夫婦関係ですから、音がドンピシャに揃い、加速度的にドンドンと良くなってきます。Kさんの顔がこのあたりから変わって来ました。何故なら、音から音楽に変わり始めたからです。その秘密は筐体の寸法比であったり、コンセント間を繋ぐケーブルの長さが157.5ミリであったりの「カイザースケール設計」にあります。


 デジタルケーブル/RGB7


 どうしても気になって仕方なかったのが、デジタルケーブルで繋ぐよりアナログピンケーブルで繋いだ方が音が良いので、今はそうしているというところでした。そうであるなら、デジタルアンプとしての価値はありません。TA-DR1はアンプとしても優秀ですが、むしろ凄いのはDAコンバーターの部分だと私は診ております。

 ごく最近我が社と他社のデジタルケーブルの音の違いに、天と地ほどの差があるのを知ってしまった私としては、行った先々で出来るだけ体験して頂くよう心掛けております。今日は27万円もする最高級品/DIG-RGB7の試聴です。このコンポーネントですと、そのポテンシャルに伍した物はこれ以外にありません。それ位今日のコンポーネントを私は買っています。

 ピンケーブルを外し、デジタルケーブル1本での真っ向勝負ですから、出た音に対して全く言い訳は利きません。要するに、全てがガラス張り状態です。結果はどうでしょう?。とうとう眠れる獅子が目を醒ましてしまいました。「アンプも凄けりゃ、スピーカーも凄い」、初めてコンフィデンスの名前を付けた理由が分かりました。

 それにしても、アンプの裏にたった1本のケーブルしか繋がれていなくて、こんな素晴らしい音が出るのですから、理屈としては分かっているようでもあるのですが、やはり、私には理解不能です。何か狐につままれているようです。この音を聞いた限りは、今後のハイエンドオーディオシーンはデジタル化に向けて一直線に進んで行く事でしょう。このDIG-RGB7の事を、私自身の口から「世界最高峰」と大風呂敷を広げましたが、迷う事無くこの時点で確信を持ちました。


 真打登場


  次は、体験して頂いて売れなかった例しがないという、「サウンドステーションU」の登場です。ある意味ローゼンクランツ製品の中で一番コスト フォー バリューが高いかもしれません。それは、 これほど”音を音楽に変えてしまう”物が他にないからそう言えるのです。

 オリジナルのサウンドステーションの開発は私ですが、現行モデルのタイプUと加速度組み立ては息子によるものです。目にも留まらぬ早業でボルトとワッシャのペアリングを取りながら、彼自身がその場でトルクコントロールした上で組み上げて行きます。

 とりあえず、スピーカーをベタ置きで聴いて頂きますが、まったく別世界で音楽が鳴っているような変化です。どんなスピーカーも、この上に乗っかると急に歌が上手くなるのですからどうしようもありません。

 サウンドステーションUの詳細はこちらをご覧下さい。


 スピーカーのエネルギー調整


 そして、いよいよ大詰めがやって来ました。スピーカー本体の加速度組み立てです。本体を横に寝かせ、意気込んでユニットの取り外しに掛かろうとするのですが、密閉式ゆえ粘着性の物を間に入れてあるのでしょう。なかなか外れそうもありません。”ヒートガンで熱を加えてみようかな”と思い始めたところで、僅かに動く気配がしました。慎重に少しずつ少しずつ動かしているうちにフッと軽くなり、ウーハー部分が外れてくれました。

 ユニット自体のフレームかと思ったら、単に押さえとしてのアルミプレートリングでした。どおりで普通の止め方と違うはずです。形としては時計で言うところの12時、2時、4時、6時と60度間隔の6ヶ所止めの方法ですが、1ヵ所に相当する所に2個ずつ合計12本のネジで止めてあるのです。止めると言うより押さえていると言った方が正しいでしょう。そのスピーカーユニットのフレームは中心に向けて幅が10ミリ有り無しで、ネジを通す為の穴は有りません。この方式ですと外周全域に均一に力が加わるから、恐らく不要共振発生が少ないのでしょう。コンフィデンスの拘りが垣間見えた瞬間です。

 偶然でしょうが、どのユニットも大きく角度修正するほどではありませんでした。しかし、ツイーターとミッドユニットに限っては構造上180度入れ替えるしか出来ませんでしたので、最終的に3つのユニットのバランスを取るには、中・高ユニットのベクトル合成値に合わせて、ウーハーユニットの位置調整するしかありません。幸いにもネジ穴に関係なく、ウーハーユニットはミリ単位で好きな位置で固定する事が出来るので、それに助けられ、ほぼパーフェクトなエネルギーバランスに仕上げる事が出来ました。

 もうここまで来たら、一気にPB-BIG BOSSと同時に聴いて貰おうという算段です。正に最後の直線に入って加速度が増したクリニックであり、セッティングです。気合を入れ、最終調整を慎重に仕上げた音は、昨日までのシステムとは雲泥の差となって、今ご自身の目の前に生まれ変わったのです。10年ほど前にジェフベックを生で聴いた時の感動が再現されたようだと顔をほころばすY.Kさんです。
 
 この魅惑の世界を知ってしまうと、
 
 音楽を聴く喜びを脳が感じ取り、

 他の物では代役をなさなくなるのです。


 私の中の葛藤


 お客さんの喜び指数が上がるほどに、私は逆に冷静になるのです。そうでなければ、平然と良い音を作っていく事は出来ません。しかし、音はこうして見えても、どうやっても見えないものがあります。それは人の財布の中身です。今日聴いて頂いたモノ全てを買うとなると結構な金額になってしまいます。そんな事を考えると、「これはお聞かせしない方がいいかな?」と思ったり、いらぬ遠慮が覗いてくるんです。

 後になって、『それ以上のモノがあるのなら、教えてくれたら良かったのに・・・』、あるいは、『少々の金額の違いなら、後で後悔のないように一番上の物にしていたのに・・・』とお客さんから言われる事もあります。過去のそんなやりとりが頭の中をよぎります。

 「電気の時間軸」、「振動の時間軸、「空間の時間軸」、この3本柱をキッチリと仕上げる事がカイザーの音作りの何よりの基本です。ここまでの音が出てしまったのなら、また、将来の目標と指針が見えるなら、やっぱり、「この先の音までお聞かせするべきだ!」。

 そんな一人会話の末に、おもむろに箱から取り出したのはスピーカーケーブル/SP-RGB2です・・・・・。

 すみません。

 この先の音については、ちょっと活字では表せません。


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